東京農大オープンカレッジ「パン食文化サロン”三国三様”」~前編・パン食で見つめなおす未来


「パン食文化サロン″三国三様″」に参加!!

2020年2月17日㈪、東京農大世田谷代田キャンパスで開かれたオープンカレッジ「パン食文化サロン″三国三様″」に参加してきました。

この講座は専任講師の青沼一彦さんが、毎回多彩なゲストを招き、食文化としてのパンを解説しています。

昨年は″三麦三様″でパンや日本酒、チーズなど〈発酵〉についてや小麦の種類によるパンの味の違いをテイスティングしながら学びましたが、今回は国によるパンの食べ方の違いや食材への考え方についてのお話です。

″ブロートコネクター″によるスモーブローのご紹介。

″ブロートコネクター″早川ゆかりさんにデンマークの「スモーブロー」(オープンサンド)を作っていただき、全員でまずは試食。

″ブロートコネクター″とは、″ブロート(パン)+コネクター(つなぐ人)″という造語で、パンと物、パンと人、パンと地域をつなげる仕事。
早川さんはウイーン、スイス、デンマークなど欧州で黒パンの食べ方を学んでこられ、現在は山梨県甲府市にあるドイツパン職人工房「ヴァルト」で働きながら活動をされています。

具沢山のスモーブローは崩しながらいただくのがGOOD!

白いランチボックスに4種類のスモーブローと右上のアルミカップにライ麦パン2種類。
スモーブローはお弁当として持ち運ばれてもいたようなので今回もお弁当仕様に。デンマークでは本当に忙しいときしか具材を挟んだ形にはせず、あくまで具材を載せて食べる形式なんだそう。

″スモー(バター、塗る)+ブロー(パン)″という言葉どおり、黒パン(ライ麦パン)にバターやチーズなど具材が落ちないように「塗る」ことが重要で、パンの厚さは7~8㎜、ソース(バター)→魚介類→肉類→野菜の順にモリモリに載せてワインと楽しんだり。

ライ麦パンは扱いも楽で、冷蔵庫で2週間、冷凍庫で2ヶ月保管できるので、お米を炊いて食べるよりお手軽に食べたいときに食べることができるので実はお役立ち食材ということを知り、私も今よりもっと常備しておこうと思いました(笑)

スモーブローはナイフとフォークで食べるものだそうで、具材を重ねているのでうまくカットできず崩れてしまいますがそれが当たり前で、あえて混ぜる(mix up)のがいいそうです。
ヨーロッパに多色使いや色鮮やかなお皿が多いのは、食卓が黒パンなど茶色い食材になりがちなのでお皿で彩りを足すのだそうです。それを聞いて北欧のマリメッコなどのブランド食器の色使いに納得です!

本日使用されたパンはすべて北海道・十勝地区にあるオーガニックパン工房「風土火水」のもの。

和食とパンの相性を実感できる4種のスモーブローを実食!

まずは何ものせない状態のパンを試食。
左側が柏(ライ麦全粒粉40%。香りにも味にも酸味がありクラストは薄く焼かれている)
右側がくろぱん(ライ麦全粒粉100%。ライ麦のキュッとした酸味、旨味、水分多くしっとり)

♦くろぱん、鯖の味噌煮缶、根菜のマリネ(蓮根・人参・ごぼう)、マッシュポテト

味噌煮缶の汁でパンがしっとりして食べやすくなる。また、魚臭さとライ麦や全粒粉のパンはバランスがいい。気になる方はオリーブオイルを少し垂らすといい。
ライ麦の酸味とマリネの酸味が相乗効果で合い、根菜の硬め食感と鯖の軟らかい食感の違いも面白い。

♦柏、ペッパーポーク、紫玉ねぎ、ピクルス、マヨネーズ、フェンネル

マヨネーズで具材とパンをつなぎ、ピクルスの酸味とパンの酸味を合わせる。鯖缶のよりも軽やかであっさり。ハムや玉ねぎなど家庭に常備されている食材で気軽に作れることからこの組み合わせを提案してくださる。

♦柏、枯露柿(山梨の名産の干し柿)、サワークリーム、ミント

山梨在住の方から枯露柿のお菓子をいただいて以来、ねっとりとした干し柿が苦手だった私が大好きになったほど、食感が干し芋のようで甘さがしつこくないのです。今回は特別に一年熟成したものを使用。
バターを合わせると重くなりそうなところをサワークリームにしたことでさっぱりとして上品な仕上がりに。会席料理のデザートにもなりそうです。地域の特産品とスモーブローを組み合わせられないかと考えたことからできたもの。

♦くろぱん、羊羹、マスカルポーネ、甘夏ピール

使用したのは、岡山県「古見屋羊羹」。2㎝の板状で表面を糖が覆っているもの。早川さんのお気に入りだそうです。
マスカルポーネチーズと餡と甘夏ピールの組み合わせなんて私には想像もつかないので、ライ麦パンと餡の相性に気づいた早川さんの発想力に脱帽です。

※「風土火水」のパンは、雑誌『BRUTUS(ブルータス) 』2019年12/15号No.906[日本一の「お取り寄せ」を探せ!]に掲載されていて大変人気があります。デパート催事で見かけることもありますので食べたことない方はぜひ見つけたら味わってみてください。旨味の濃いパン達です。

『パン食で見つめなおす未来』

試食と前後しながら、本日の講師である「麦踏み塾」塾長の青沼一彦氏から、日本の小麦食文化の変遷や食料資源としてのパン食について『パン食で見つめなおす未来』をテーマにお話がありました。

●戦後70年で急激に変化したパン食文化

日本において小麦は上記スライドのように和食文化の中で独自に発展を遂げてきましたが、最も変化したのは戦後70年、食生活の欧米化がきっかけです。

・GHQの食料援助により製パン講習会が実施され、コッペパンなどの技術を学んだパン職人が1万人も輩出される
・学校給食でもパンが主流になり、そこで慣れ親しんだパン食が家庭にも普及
・スーパーで袋入りのパン、ランチパックなどが流通
・コンビニのサンドイッチや、焼きそばパンコロッケパンなどの総菜パンが登場し手軽に食べられるものとして普及
→しかし、その原料である小麦の96%が輸入でありアメリカに依存。
→ゆえに日本ではパン=白い“食パン”が一般的に。

パン食が育まれたヨーロッパではパンといえば茶色い“ブラウンブレッド”です。
食料資源としてみると、18世紀まで人々はライ麦やオーツ麦などを使ったパンを食べており小麦を使った白いパンは貴重で特別な時にしか食べられなかったのです。

食パンにバター、塩分の取りすぎになってませんか?

正しい知識をもってパンを食べることは“知るワクチン”になるということで
○健康に留意した食べ方○
・食パン6枚切り1枚に含まれる塩分は0.7gで、日本は食パンにも塩、塗るバターにも塩が使われていて塩分の摂りすぎになる。
・ドイツなどでは黒パンに無塩バターや、酸味×酸味の相性の良さから黒パンにクリームチーズなどを合わせたり、自然と健康に気を付ける習慣になっている。

オーガニック後進国の日本

○安心な原材料について○
・今、世界はオーガニックへとシフトしている。
ヨーロッパでは第2次世界大戦後に食糧増産を優先し、殺虫剤リンデンが開発され、穀物倉庫にも燻蒸目的で使用された。
1960年代「沈黙の春」(農薬などの化学物質の危険性を、鳥達が鳴かなくなった春という出来事を通し訴えた本。 日本では2000年代にベストセラーに)が社会的に大きな影響を与えた。
1980年代、除草剤グリホサートに耐性のある遺伝子組み換え植物(大豆やコーンや小麦など)が社会問題になる。
2000年代、有機農産物の生産量は世界では20%あるのに日本は2019年現在0.5%と低い。
・欧州は食にうるさく農薬などに厳しく規制制限があるが、逆に日本は緩和されていき色々なものが入ってきてしまう現状。
・耕地面積1ha当たりの農薬使用量(kg)が韓国11~12に対し日本は14以上と農薬使用量№1である。さらに雨が多いので殺菌剤なども使用している。

パンにまつわる残留農薬問題を考える

1996年、多くの農業者や消費者の募金により設立された【農民連食品分析センター】は世界的にも珍しい分析施設で、募金による設立のため、企業や行政などの影響を受けることなく独立した立場で活動を行っています。
このセンターは設立以来、学校給食パンのポストハーベスト農薬問題、漢方薬の残留農薬問題、割り箸への漂白剤使用問題、中国産冷凍ほうれん草の残留農薬問題などを明らかにしてきました。

こういうセンターがあることを私は知りませんでしたが、利害関係のない独立した施設だからこそできる検査結果(真実)を明らかにして日本の食の安全にこれからも警鐘を鳴らして、安心安全な食生活を守っていただきたいと思いました。

写真で説明している袋パンのグリホサート残留結果は、メーカーの商品ごとに小麦の原産地と残留結果を表示していますが、検出されなかったのはPascoの“国産小麦”と銘打っている商品や東都生協で扱っている、やはり国産や有機と表示されている小麦を使った商品のみでした。
現在、食品アレルギーをもつ人が増えていますが、人工的に作られたものがアレルギーの原因になると考えられています。

鶏卵や牛乳も飼料に残留農薬のあるものを使っていればそれを介して人間の体内に入るわけですから、大変であってもそこまできちんと情報収集して、自分や子供たちの安心して過ごせる未来を考えていかなければいけないと気づく内容の講義でした。ありがとうございました。


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この記事を書いた人

岩田聡子

岩田聡子 さん

パン屋さんめぐりは人と人を繋ぐ。転勤族&専業主婦の私でも気づけばパンを通じて友達の輪が!!旅行好きな主人と地方のパン屋もめぐってます。

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