「未来を変えるパン」「3日目が美味しいパン」ってどんなパン?(前編)【東京農大オープンカレッジ】(東京都・世田谷区)


小田急線「世田谷代田」駅徒歩2分の場所に「東京農大・代田キャンパス」が2019年4月にオープン。
1階には農大のアンテナショップ「農」の蔵があり、東京農大醸造科卒の全国の有名蔵元の地酒やワイン、調味料や食材などが並びます。
また、敷地内では野菜の販売や朝市なども開催。

施設2階では農大オープンカレッジが随時開催されています。
昨年7月に予定されコロナ禍で延期になっていた【3日目がおいしいパン】をテーマとした講座がやっと対面での開催となり参加してきたので、いつもとは視点を変えたパンについての話を共有させてください。

【未来を変えるパン】とは?

講師は「パン食文化研究室」主宰の青沼一彦さん。
パン食文化を研究することで日本の食の在り方を見直す活動をしています。

この講座の大きなテーマ【未来を変えるパン】とは?
フードロス、地産地消、合成添加物不使用、フードマイレージなど健康と環境に配慮したパンの総称です。

パンは老化していきます。
時間が経つと硬くなる、乾燥する、香りや風味がなくなる、カビが生えるなどの現象が起きます。
日本人はパンを「焼きたて」という言葉で評価する傾向があるけれど、それは3時間も経てば消えてしまう価値であり、
翌日には販売できないため閉店後に廃棄してしまうことも多く「フードロス問題」を助長しているように思うのです。

日本人の多くが好むパンは食パン、コッペパンなどやわらかいものですよね。
これは日本が戦後、GHQの食糧支援により小麦粉(強力粉)で焼いた白いやわらかいパンを口にするようになったからです。

パンが生まれたヨーロッパでは、1週間に1度、竈に火を入れてパンを大きく焼き、1週間かけて楽しんでいました。
3日目を過ぎると硬くはなるけれどルヴァン種(主に小麦粉、ライ麦粉、と水をあわせて作った発酵種)を使うことで味がよくなります。

ヨーロッパでは日が経つごとに変化する味を楽しむべく食べ方を工夫したりする文化がありますが、日本のパンの歴史はまだ80年足らずで「焼きたて」という価値が優先されがちです。
「焼き立て」ではなくても美味しいパンがあること、美味しく食べる方法を知ればフードロス対策にもなります。

食糧資源として小麦を捉えるために始まったこの講座。
4年前にゲストスピーカーで英国のパンの歴史など話してくださった「モーニングトン・クレセント」オーナーシェフ、ステイシー・ウォードさんは
《パンは命の源》と表現され、生きていくのに必要なものであると。

昔はパンによって命を繋いだのに現在は食糧資源が豊か過ぎて
“映えるパン”“食リポの過激化によりエンタメ化したパン”がもてはやされています。
未来の子供たちに持続可能なパン食文化を伝えていく必要がある、とこの講座では考えていきます。

パンの価値をマトリクス分析。
●縦軸は家のそばで買うのか、家から遠い店で買うのか
●横軸は焼きたてなのか、長持ちなのか

家から遠いけれど食べたいお店のパンを欲するときは「長持ち」させるために「冷凍」という手段を取ります(エリア右下)。
コロナ禍、冷凍パンは特に普及しました。しかし、冷凍商品の輸送及び個配が増えればCO2の排出も増えていきます。
発想の転換⇒発送の転換
パン屋さんに買いに行きましょう!という青沼さんからの提案です。

※私は冷凍パンの増加は、パン屋さんにとってもロスパンが減るし、買う側にとっても旅行できない状況下で食べたいお店のパンが買えるのは嬉しいと単純に思っていました。
しかし、CO2の削減や宅配ドライバーの労働環境の劣悪さなどを思えば、考えなければいけない問題なのだなと知ることができました。

今回は「三店三様」として、3軒のお店がパンを準備してくれました。
どのパンも金曜日に焼いたものなので3日目のパンになります。
※講座は日曜日に開催されました。

写真左下から反時計回りに
①茨城県「パン・アトリエクレッセント」
②神奈川県「ムールア・ラムール」
③山梨県「ヴァルト」

山梨県甲府市「ヴァルト」の渡辺シェフが、3日目が美味しくなる理由を動画で伝えてくださったので以下にまとめましたが、リンクも貼っておきますのでお時間ある方はご覧になってみてください。

3日目が美味しくなる7つの理由

①サワー種効果
ライ麦から作るサワー種がパンに対して色々な効果あり。保存性が良くなる等。
ライ麦に含まれるペントザンという多糖類は、水と一緒になることでゲル状になりどんどん水分を吸着⇒3日目でも水分が残り食感も美味しくいられる

②ミキシング
八ヶ岳で作られている小麦の全粒粉使用。全粒粉や胚芽の部分に水分を多少溶け込ませなければいけないので少し吸水のための時間がかかるけれど、その間ミキシングはせず放置!
国産小麦はこねすぎると弾力の乏しい生地になるので短時間にすることにより澱粉から水分が出にくくなる。

③ドイツパンの作り方はサワー種を使うことによりミキシングした後にいきなりフロアタイムを取る(=一次発酵をしない)。
フロアタイム10分→分割→丸め

④大きく分割する。
一番小さいパンでも500g、大体は1㎏で成形。
大きくすることで中心部(クラム)に水分が残りやすくなる。

⑤ドイツパン窯を使って焼くと蒸気がいっぱい出るのですが、さらに蒸気を入れながらクラストはしっかり焼きこむことで壁になり、中心部の水分が抜けにくくなり長期保存可能になる。

⑥パンの切り口を見ると中心部は目が細かくなっているが、その部分に香り(アロマ)や水分が閉じ込められているので、熱いうちにカットすると断面からアロマも風味も逃げていってしまう。
温度が下がって落ち着くことで風味がきちんとパンに閉じ込められるので、1日目2日目と段々美味しくなっていく。

⑦ph値
カビはph7で発生するけれど、サワー種で作るときはph3.7(酸性でかなり低い値)でミキシングするので酸性の生地になりカビが発生しにくい。
数日間カビを抑制する効果あり。

講座内容にボリュームがあるため、実際にパンを試食した感想やパンの保存方法、美味しく食べるアレンジレシピなどは後編に続きます。

次回の講座は、
◎6/18(日)ご当地小麦パンと地域食材のマリアージュ
※申込期間(4/3㈪~5/31㈬、申込先着順)
◎7/23(日)ドイツの火を使わない夕食 カルトエッセンに学ぶ
※申込期間(4/3㈪~7/6㈭、申込先着順)
を予定しております。

単に美味しいと食べていたパンをより深く知れて、大人の学びとしても楽しい場ですので、興味を持たれた方は参加してみてくださいね。

東京農大オープンカレッジ(6/18(日)講座)申込ページ
https://noudaisup.sa-advance.com/lectures/view/3700
東京農大オープンカレッジ(7/23(日)講座)申込ページ
https://noudaisup.sa-advance.com/lectures/view/3704
パン食文化研究室のHP
https://miraipan.jp/introduction


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岩田聡子

岩田聡子 さん

パン屋さんめぐりは人と人を繋ぐ。転勤族&専業主婦の私でも気づけばパンを通じて友達の輪が!!旅行好きな主人と地方のパン屋もめぐってます。

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