北海道産ライ麦を使うことで農家さんを応援しているお店をご紹介⑤【GORGE(ゴルジュ)】(横浜市・神奈川区)


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「リジェネラティブ・ベーカリー」シリーズ

北海道産のライ麦を使ってお店がパンを焼き、そのパンを私たち消費者が食べることが「環境再生型農業」の普及にも役立つというお話。

農薬や化学肥料に頼り過ぎない農業「環境再生型農業」の手法の一つにライ麦栽培があります。
ライ麦は人の背丈ほどの高さまで成長し、と同時に土の中に深く根を張るので畑の保水性や排水性が上がるなどの土壌改良の効果が知られています。

今の日本では緑肥(葉や茎を土壌にすき込んで肥料とすること)にするライ麦品種が主流ですが、ここに登場する“ハンコック”という品種は食用なので、緑肥として、食用として、輪作体系の改善対策としてなど利用価値が高いと期待されているのです。

リジェネラティブ・ベーカリーシリーズでは、その“ハンコック”を使ったパンを作っているお店をご紹介していきます。

第5弾は、神奈川県横浜市にある「GORGE (ゴルジュ)」小林公平シェフにお話を聞いてきました。
東急東横線反町駅から徒歩2分。
外観には昭和レトロを感じる「オグラベーカリー」の文字がありますが、こちらが「GORGE ゴルジュ」さんです。

小林シェフは3代目。初代のお祖父様の後を2代目の叔父様が継いだものの、病気でパンが作れなくなり一度閉店を余儀なくされました。
その頃シェフは大学生で、やりたいこともなくこれから先のことを考えたときに、小さいときに厨房に入らせてもらったり思い出のある場所がなくなるのは寂しい、だったら僕がやってみよう!と店を継ぐことを決意。

10年間の修業を経て、祖父の代からの店の看板をそのままに「ゴルジュ」として2017年にオープン。

歩道に面した入口は大きなガラス張りなので、店内に並ぶパンを眺めることができます。

店内は惣菜パン、菓子パン、食事パン、ハード系のパン、と種類豊富に並びます。
平日で60種類、週末は70種類も作られるそう。

北海道産ライ麦“ハンコック”を使うようになったきっかけは?

お店のパンは国産小麦100%で作っているので、ライ麦も今使っているドイツのものから国産に変えるタイミングを見計らっていたところ、ハンコックという国産ライ麦の話を聞きました。。
国産ライ麦も何種類か過去には使ってみましたが継続使用には至りませんでした。

今までに使ったライ麦との違いは?

味がソフトで粒子も細かいですね。
子供さんから年配の方まで『誰でも食べられるパン』を店のテーマにしているのでライ麦を使っているパンがそんなに多くないのですが、ハンコックはライ麦初心者にも食べてもらいやすい味だと思います。

どんな商品に北海道産ライ麦を使っている?

カルダモンロールです。
ライ麦のパンというとどうしてもカンパーニュ、またはプンパニッケルなどのドイツパン系になると思うのですが、僕は皆が食べやすいパンで、なおかつ副材料がカルダモンというスパイスなので香りはライ麦よりもこちらが前面に来ると考えました。
そこに食べた時の奥行きとしてライ麦の酸味が欲しかったのです。
また、サワー種にしたほうが普通に粉で配合するより利点が多いと思うので、カルダモンロールにはサワー種としてのみライ麦を使用、粉としては配合していません。

作り方は、まずカルダモン入りの全粒粉のブリオッシュ生地を作り、そこにカルダモンバターを塗って折り込んで層にしたものをねじって巻いていきます。層になっているので食感もいいです。

発売当初は週に一回、土曜日のみの販売でしたが50個が完売!もっと販売してほしいとのお声をいただき毎日販売する定番商品になりました。
カルダモンロールを作っているお店は少ないからか、わざわざ買いに来てくださるお客様も多く人気があります。

なぜライ麦応援に参加しようと思われたのか?

北海道産ライ麦ハンコックを作られている「アグリシステム株式会社」さんの小麦粉をお店オープンのときから使用していて、土づくり、農薬不使用、有機栽培への転換支援等々、次世代へ安心安全なものを残していく姿勢に共感しているからです。

僕が働いていた「ブノワトン」※1は、国産小麦使用、地産地消をモットーにしていたので知らず知らずのうちに僕のDNAにもその意思が染みついています。なので、国産小麦、国産ライ麦を使ってパンを作ることで街の小さいパン屋だけれどアグリシステムさんの想いを共有し、流れの一端を担えているのではないかなと思っています。

アグリシステムさんは働いている人達の顔が見える仕事をされています。そういうのってすごく大事で、モチベーションにも繋がります。

僕はパンを作るだけですが、そこには小麦を育てる人、製粉する人がいます。
北海道産有機ライ麦ハンコックを使っている人はまだ割合的には少ないと思いますが、「カルダモンロールにハンコックを使っています!」とSNSで発信するなど些細なことですが広めていきたいです。

ハンコックを使ったパンを実食!


◆カルダモンロール
カルダモンの柑橘に似た爽やかな香りとバターの香りが印象的に断面から漂います。
食感は外側カリッ。折り込んだカルダモンバターが焼くことでデニッシュのような食感をもたらしているのでしょう。
内側はしっとり&ややむちっ。優しい甘みでほっとします。

トースターでリベイクするとカルダモンの香りが際立ちます。
外カリカリ、中しっとりが増すように感じました。個人的にはリベイクおすすめです。

小林シェフがおっしゃるように食感がとてもよく、ハンコックのライ麦の香りは私にはほぼわからないくらいなので、ライ麦が苦手とおっしゃる方にこそ試してみてほしい一品です。


◆カンパーニュ
クラストは強めの焼きの香ばしさ。クラムを嗅いだ時の鼻から抜ける香りがアールグレイのような中国茶のような爽快さ。
ハンコックを使っている別のお店のパンを食べた時も同じようにお茶のような香りを感じたのですが、これがハンコック特有のものなのかもしれません。

クラストはしっかり噛みしめるような硬さがあり、クラムはむちむちとしてコントラストあり。
酸味は控えめでライ麦を食べた時に時折感じる焼き芋のような香りもします。うん、美味しい。

ライ麦に限らずお店で人気のパンもご紹介


◆クリームパン
5年前に食べた時の美味しさが忘れられず購入。
毎日炊き上げる自家製カスタードの卵感とブリオッシュ生地の卵感の相乗効果で卵好きにはたまらない美味しさ。
絶妙なとろり加減のクリームのキャラメリゼされた部分が、プリンのカラメルのような香ばしさなのです。
やっぱりゴルジュさんのクリームパンはリピート必至です。

これからどのようなお店にしていきたい?

この場所で、いつも来てくれるお客様に変わらずパンを提供する、というのが目標です。
新しいパンにチャレンジしようなど自分なりの変化は日々あるだろうけれど、これまでやってきたことを大きく変えることなく、体力の続く限り長く『継続』してお店を続けていきたいです。
それが来てくださるお客様の望みでもあると思うので。

小林公平シェフ

取材を終えた帰り際、奥様が「うちの人は普段は無口で黙々とパンを作っているんです。なので、取材があるといつもとは違いよくしゃべる姿を見られるんです(笑)」と教えてくださいました。

小林シェフからは国産の小麦&ライ麦にこだわる理由、それらを育てている農家さんや企業への応援の想い、そして、食べてくださるお客様への愛情が伝わってきました。

私は食べることしかできませんが、その食べるものをきちんと取捨選択して、自分や子供たちの未来が安心して暮らせる世の中になるようなものを提供しているお店を選んでいきたいと思います。

※1
「ブノワトン」は神奈川県伊勢原市にあった、神奈川県産小麦を育て製粉するところまで自分のお店で行う『湘南小麦プロジェクト』を推進した、パン業界で知らない人はいない今は亡き高橋幸夫さんのお店。

SHOP INFORMATION
【店名】GORGE (ゴルジュ)
【住所】神奈川県横浜市神奈川区反町3-23-1
【電話番号】
045-321-3550

【営業時間】8:00~19:00
【定休日】日・月

※写真の商品の種類、価格は、2023年10月現在の情報となります。
営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗もしくはSNSなどでご確認ください。


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この記事を書いた人

岩田聡子

岩田聡子 さん

パン屋さんめぐりは人と人を繋ぐ。転勤族&専業主婦の私でも気づけばパンを通じて友達の輪が!!旅行好きな主人と地方のパン屋もめぐってます。