能登の風土が息づくパン屋【月とピエロ】(石川県・鹿島郡中能登町)
石川県中能登町にある「月とピエロ」。
自家培養酵母と薪窯で焼き上げるパンを求め、全国から人が訪れる、ハード系パン好きにとっての“巡礼地”のような存在です。
薪窯で焼かれたパンは、力強いのに穏やかで、素朴なのに深い。
噛みしめるほどに、その土地の空気や時間までも味わっているような気持ちになるパンです。
今年1月、伊勢丹新宿店で開催された『石川県フェア』に初出店され、その名を知った方も多いのではないでしょうか。行列の絶えない様子に、能登の小さな町で焼かれるパンの存在感を改めて感じました。
私が初めて訪れたのは2016年秋。石川県旅行中、悪天候で予定を変更したことで偶然たどり着いたのが始まりでした。
当時はご実家の納屋を改装した店舗でしたが、2021年には現在の店舗兼住居へと生まれ変わっています。
パンを焼くのは長屋圭尚さん。焼菓子を担当されるのは妻の由香里さん。
お二人が紡ぐものは、パンや菓子だけではありません。SNSに綴られる文章にも、季節や暮らし、パンを作ること、生きることへの想いが滲みでていて、私を含め多くの人がその言葉にも惹かれているのだと思います。
細い道を進んでいくと、緑溢れる空間にふんだんに木材を使った建物が現れます。
深呼吸したくなるほど気がいい場所。凛と立つ桜の木がこの地を守る御神木のようにも感じられました。

入口脇に掛けられたアートは、どこかカンパーニュを思わせ、人の形をしたドアノブにも遊び心と美意識が感じられます。

ドアの横にある、石板に丸い石を並べて作られた定休日案内も実に美しく、目に映るものすべてに、この場所らしい静かな感性が息づいています。
店内は一組ずつになるので、前の方がでてくるのを待ってから入店。

土曜日の11時過ぎ。開店からまだ1時間ほどでしたが、棚のパンはすでに少なくなっていました。
旅程上、到着が遅くなることがわかっていたため予約をしておいて正解でした。

店内入って左手にあるイートインスペース。
やわらかく差し込む光、外の緑を眺めながら、いつかここで大好きなパンを味わってみたいと思います。
購入したパンはこちら


◆クロワッサン
鼻先に届くのは、芳醇なバターの香り。
薪窯の熱で焼かれた表面はパリッカリッと繊細に砕け、中はしっとりとした層が幾重にも重なります。
端のザクッとした部分から溢れるミルキーなバター。それに負けないほど、小麦の味わいが濃い。
落ちたかけらさえ惜しく、指先で集めながら最後まで味わいました。
ここからのハード系パン数種は購入から3日目以降、リベイクしてから味わいました。

◆パン・オ・フロマージュ
予約販売のみの特別な一本。
袋を開けた瞬間から香りの広がりがすごく、チーズの海に溺れてみたくなります。
軽やかな噛み心地のクラストに対し、クラムはむっちりとみずみずしい。
どこを噛んでもチーズが顔を覗かせ、ルヴァン種のほのかな酸味とチーズの酸味が互いに作用して深い味わいに。
◆パン・ド・カンパーニュ
クラストから立ち上るのは、どこかハーブを思わせる爽やかな香り。
底面には濃密な麦の香ばしさが宿り、ずっと嗅いでいたくなります。
クラムは、まずヨーグルト種のキュッとした酸味が立ち、その後からじんわり甘みが広がる。
リベイクするとクラストは香ばしさが増し、クラムはふんわり。
無塩バターを添えると酸味がマイルドになり、発酵の複雑な旨みがより立体的に感じられました。

◆パン・ド・セーグル
北海道で自然栽培されたライ麦を使用。
香りは深く、どこか焙煎したコーヒーのよう。鼻へ抜ける余韻だけでも満たされるほど。
むっちりとしながら、ほろりとほどけるライ麦特有の食感。
酸味は穏やかで、全粒粉の濃厚な旨みが広がります。無塩バターを合わせると、ライ麦の滋味がさらに際立ちました。
◆パン・オ・フリュイ
メイラード反応による香ばしく引き寄せられる香り。
オレンジ、レーズン、カレンツ、くるみ、アーモンド。ぎっしり詰まった具材が、噛むたびにこのパンの表情を変える。
柑橘の爽やかさ、ナッツのコク、果実の甘み。
トーストして無塩バターを塗ると、まるで上質なフルーツケーキのような味わいに。
何度食べても思わず「美味しい」と声が漏れてしまいます。

◆クグロフ
しっかり焼き込まれた色の底面、卵の豊かな香り。
ラム酒漬けレーズンを入れたブリオッシュ生地はふんわりと軽やかで、どこか黒糖を思わせる深いコクがあります。
トーストすると表面はサクサクに変化し、卵の風味がさらに濃厚に。
甘さは控えめで、多幸感を感じるクグロフです。
焼菓子も美味しい

写真左:パヴェ、写真右:月の砂漠
◆月の砂漠(ココナツ味)
厚みのあるクッキーは、全粒粉のざくざく感とココナツのシャリッとした食感が心地よい。
粗めの塩が効き、優しい甘さをふわりと引き立てます。一本でも満足感のある焼菓子でした。
◆パヴェ(スコーン)
ひと口目から押し寄せる全粒粉の香ばしさ。
ホワイトチョコやナッツのコクに、控えめな塩気が輪郭を与えています。
噛むたびに小麦の風味が大きく広がり、思わず「うまい」と声が出る美味しさ。
能登半島地震後に訪れてみて

能登への旅行は、2年前に起きた「能登半島地震」への支援に少しでもなればと考え、宿も再開したところが増えてきたので遅ればせながらの訪問となりました。
地震当時のお話を由香里さんにお聞きしました。
「この辺りは震度5ほどの揺れで、自宅の食器が落ちたり、薪窯がずれてしまい、一カ月ほどパンを焼けませんでした。幸いすぐに修理ができ、再び火を入れられるようになりました」
輪島方面では今も更地が広がり、以前とは違う景色に胸が沈むこともあるそうです。
それでも、能登の人たちは前を向いています。
「新宿伊勢丹の石川県フェアに一緒に出店していた「ラトリエ ドゥ ノト」 の池端シェフも、店舗倒壊によりフレンチとしては営業できていないけれど、別の形で復活をされていて、そういう姿にこちらが元気をいただいています。」と。
被災を経て、今後の生き方を変えるようになり、お店の営業スタイルも少し変わったとのこと。
遠方からのお客様が訪れやすいよう祝日の営業を増やし、催事にも積極的に出店するようになったそうです。
「催事で知ってくださった方が、いつか能登のお店まで来てくださったら嬉しいですね」
その言葉が、とても印象に残っています。
実際に足を運ぶと、パンだけではなく、その土地の空気や景色、人との会話までもが記憶に残ります。
パンは、粉や酵母だけでできているのではなく、その場所に流れる時間や風土、人の営みまでも抱き込んで焼かれているのだと、改めて感じました。
今回、七尾湾に浮かぶ能登島にも足を延ばしましたが、仮設住宅や通行止めの道も目にしました。和倉温泉でも、建物の損壊や更地となった風景が残っています。復興には、まだ時間が必要なのだと思います。
それでも、新たに営業を始めた店や、灯りをともす宿もありました。
また必ず、能登を訪れたいと思います。

ちなみに、お店の名前は建物には大きく掲げられておらず、駐車場にさりげなく記されています。
初めて訪れる方は、ぜひ外観を目印に向かってみてくださいね。
SHOP INFORMATION
【店名】月とピエロ
【住所】石川県鹿島郡中能登町羽坂2-92
【電話番号】0767-74-0662
【営業時間】10:00~14:00
【定休日】月・火・水・木(祝日の月曜は営業)
【Webメディア】
*Facebook :https://www.facebook.com/profile.php?id=100063700954822
*Instagram:https://www.instagram.com/tsuki_to_piero/
※写真の商品の種類、価格は、2026年5月現在の情報となります。
※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗もしくはSNSなどでご確認ください。
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パン屋さんのご紹介
- 店名
- 月とピエロ
- 住所
- 石川県鹿島郡中能登町羽坂2-92
- 電話番号
- 0767-74-0662
- 営業日時
- 【営業時間】10:00~14:00
【定休日】月・火・水・木(祝日の月曜は営業)
おすすめパン

- クロワッサン

- パン・ド・セーグル
この記事を書いた人
岩田聡子 さん
パン屋さんめぐりは人と人を繋ぐ。転勤族&専業主婦の私でも気づけばパンを通じて友達の輪が!!旅行好きな主人と地方のパン屋もめぐってます。













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