東京農大オープンカレッジ「パン食文化サロン”三麦三様”」〜後編・小麦食文化とパン文化のこれから


パン食文化を学べる講座に参加してきました!

7月10日(水)、東京農大世田谷代田キャンパスで開かれたオープンカレッジ【パン食文化サロン「三麦三様」ハード系パンの食べ比べ 第2回:パンとコンフィチュール】に第1回に続き参加。2回に分けてレポートを書いています。

後編は、「小麦食文化の源流を探る」から「小麦の違う3種類のバゲットの食べ比べ」まで、より小麦について学べる講座でした!

小麦食文化の源流を探る!

東京農大 国際食料情報学部・板垣教授からは「小麦食文化の源流を探る」をテーマに講義をしていただきました。

東京農大 国際食料情報学部・板垣教授

〇世界における麦の種類と起源
●イネ科作物…小麦・大麦・ライ麦・燕麦。そのうち、小麦・大麦(六条大麦:カワ麦・裸麦、二条大麦)を〝四麦〟と呼ぶ。※六条大麦と二条大麦の違いは、麦穂の実の列が6列か2列か。六条大麦の産地は福井・富山など北陸で生産量が多く、麦茶や押し麦、丸麦として使用。二条大麦はビールや焼酎の原料に使用。

●世界に広く普及しているのは、パンコムギとデュラムコムギ。品種の総数は数万にも及ぶとも。

●約1万年前のチグリス・ユーフラテス川流域の肥沃な土地で作られた。世界四大文明はすべて小麦文化である。

●ノアの方舟には小麦が積まれていたと言われている。

●人間にとって重要とされている主なコムギとしては、近年、健康にいいと注目の古代小麦(アインコルン・エンマーコムギ・スペルトコムギ)やデュラムコムギなど。

●ヨーロッパや中近東はムギ文化、日本や東南アジアはコメ文化、東西アフリカや中南米は雑穀文化。

 

日本とヨーロッパでの小麦食文化の違い

〇小麦を使った食の発達(ヨーロッパ)
●①パン②パスタ③ピザ④菓子類(クッキー・ケーキなど)
●パン…ポルトガル語、ブレッド…英語
●世界にはパンの種類として500種類くらいある。イタリアのピザ・フォカッチャ、フランスのバゲット、南米のトルティーヤ、アフリカ北部のピタパン、インド・中央アジアのナン、等々。

〇小麦を使った食の発達(日本)
●①うどん②そば③ラーメン④そうめん⑤粉もの⑥和菓子
●麺文化が見られる。小麦粉に水を加えて練ったものが「餅(ピン)」。これをお湯に入れたものが「湯餅」で、切り麺(うどん・そば)、手延べ麺(ラーメン)、索麺(そうめん)、押し出し麺等に分化した系列がある。

なぜ、日本に小麦文化が根づかなかったのか?

●米と小麦では単位あたりの収量に差があり、米は麦の約2倍程度の収穫ができ食物としての生産効率が高い。

●米は精米→炊くと工程が単純だが、小麦は挽く→練る→焼く(蒸す)など複雑である。

●出穂の時期に雨が少ない地域のほうが育成に適しているが、梅雨と出穂時期が重なる日本では本来小麦栽培は不向き。(だから、梅雨のない北海道では昔から小麦栽培が行われていて道産小麦を使ったパン屋が当たり前なのかと納得)

※以前、本杉氏から日本の小麦についてお話を伺ったところ、日本の気候風土に合った小麦の品種改良や、農家さんが育てやすいように麦のひげのようなもの(のげ)を無くすような改良をしたり努力が続けられているそうです。

「三麦三様」(3種類の小麦を使ったパンの食べ比べ)

ここからは、石臼製粉プラント「ミルパワージャパン」の創麦師、「ムールアラムール」シェフである本杉氏の話を聞きながら「三麦三様」(3種類の小麦を使ったパンの食べ比べ)に入ります。

「三麦三様」とは、同じ年に収穫された玄麦をミルパワージャパンで精麦・製粉し、同一レシピのバゲットとして焼成したものを食べて評価する厳密な『官能テスト』です。
本杉氏によると、三麦三様を始めたのは、同じ小麦を使っても別々のシェフが別々のレシピで焼くと、バターを入れたり砂糖を使用したりで小麦本来の甘さか、香りかの評価ができず、正確な食べ比べができないため、きちんとした官能テストを体験して貰おうと思われたからだそうです。
※今回のムールドピエールは例外で、熊本製粉さんの石臼で製粉されたフランス小麦(5種類のMix)を使っています。

ミルパワージャパンで製粉も自ら行う本杉シェフ

一般的な製粉は鉄のロール機で挽くため小麦に高熱がかかってしまいますが、ミルパワージャパンでは製粉時の熱で小麦の香りが失われない9回転/1分の超低速設定で石臼挽きにしているそうです。

また、アリューロン層と外皮6層の内側3層(珠心層、種皮、内表皮)のみを残すピーリング技術や、徹底したチェックで最高の状態の小麦を製粉しています。

私はミルパワージャパンで製粉した小麦「湘南小麦」を使ったパンを食べてからすっかり虜になっており、湘南小麦を使用しているパン屋を好んで巡っています!

いざ、食べ比べ!

今回、Aで使用した「ムールドピエール」(準強力粉)はフランス産小麦を原料とし、バゲットなどハード系に合う風味と食感を楽しめるよう「熊本製粉」で石臼挽きしたもの。より3種類の違いがわかるようにと国産ではないけれど使用。

Bは、「ニシノカオリ」(強力粉)「チクゴイズミ」(薄力粉)など3種類をブレンドし中力粉に仕上げたもの。全粒粉。胚乳多め。

Cは、新しい品種、JAはだの産「ゆめかおり」(強力粉)単体。全粒粉。


以下は個人的な感想です。

A:土のような石のような香り。甘さは少なく、クラムの色が一番白い。持ち帰ってトーストするとクラストはやわらかめでサックリと、クラムはしっとり。

B:ふすまの甘く香ばしい香りがふわっとして好み。クラストはカリッ、クラムはふんわり。トーストすると食べたときに鼻腔を抜ける香りが強く香ばしくなった。

C:クラムの色が一番茶色い。香りも強い。クラストはパリパリで一番香ばしい。クラムの口どけがBはすっと溶けるのにCは少しのこりがち。

この食べ比べは毎回難しいです。基本、同じ条件で製粉、焼成しているからでしょう。パン屋ごとに食べ比べするときはお店の特徴が出るのでもっとはっきり違いがわかります。このセミナーのように純粋に小麦の味に集中できる『官能テスト』を受けられるのは数少ない機会なのですごく嬉しいです。

パンの食べ方を知ることがパンを知ることに繋がる

試食しながら各先生方のお話を聞いていると、日本でハード系パンがそれほど広まらないのは食べ方を知らないだけではないでしょうか、と。
硬くなったパンはパン粉にしたり、牛乳に浸してパンプディングに変化させたり。

確かに私もここまでのパン好きになる前はハード系よりやわらかいパンを好んでいましたが、ドイツパンには乳製品が合う、カンパーニュはサンドイッチが合う、などお店の方やパン好きの友人に聞いて美味しさを知ることができたので、そういう部分からパン食文化を広めていくことも大事だなと感じました。

パン屋の世代ごとの進化

また、初めて知ったのは、パン屋にも世代ごとに進化があるということ。
ひとつ前の第3世代(1980年代 )は、バブル経済を追い風に高級化、多様化が進み、フランス産の粉を使ってバゲットを焼く、ドイツの粉を使ってドイツパンを作る等、”本物とは何か?”を追求した世代。

現在の第4世代(2000年代)は、天然酵母を使い、長時間発酵や高加水と言った技法を駆使する職人シェフ達の登場だが、第3世代との大きな違いは“国産小麦へのこだわり ”である。日本産小麦を使いバゲットやカンパーニュを作る。
2010年代になると「小麦ヌーボ」や「新麦コレクション」など、農作物としての小麦の旬を楽しむ活動が起こる。これは品種改良が進み国内でも製パンに適した小麦が栽培できるようになった時代背景とリンクし、まさに偶然ではなく、必然だったのではないか、と。

第5世代はいつごろどのように変化していくのでしょう。楽しみです。

国産小麦が広まりにくいのはなぜ?

●価格が高い
●春小麦…収量が不安定、秋小麦…収量は安定するが味がやや落ちる
●ブランド力が弱い(お米で言う‶コシヒカリ〟のようなものがない)
●発信力が弱い(広まるにはストーリーが必要。この土地でこのようにしてこの味ができた!等)

前回も「ポストハーベスト」についての話がありましたが、国産小麦を使った粉からは「残留農薬検出されず」が当然ですが、大手製粉会社が輸入した小麦から残留農薬が検出されたことが今年初めに話題になりました。けれど、あっという間に何事もなかったかのように事態は収束していったように思います。もっと安心安全なものが安く手に入るよう、国も本腰を入れて欲しいと個人的に色々感じています。

文章にすると少し硬く感じる内容ですが、決して難しくなく、美味しく楽しく学べる講座です。

次回の東京農大オープンカレッジ「パン食文化サロン【三麦三様】」パンとチーズのマリアージュは9月11日(水)開催です。ご都合の合う方はぜひご参加ください。

https://www.nodai.ac.jp/general/learn/extension/course/d102/


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この記事を書いた人

岩田聡子

岩田聡子 さん

パン屋さんめぐりは人と人を繋ぐ。転勤族&専業主婦の私でも気づけばパンを通じて友達の輪が!!旅行好きな主人と地方のパン屋もめぐってます。

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