ロブロにスパイス、野生カカオまで。デンマークの”美味しいサステナブル”をのぞいてきました

3月上旬、都内のデンマーク王国大使館にて、アジア最大級の食品・飲料展示会「FOODEX JAPAN 2026」に先駆けたレセプションが開催されました。
会場には、サステナブル&オーガニックをテーマに掲げるデンマーク企業14社が集結。
レセプションでは、デンマーク大使より「人は食べたものでつくられる」という言葉とともに、品質やクラフトマンシップ、生物多様性を大切にするデンマークと日本の共通点についての話がありました。
美味しさ・安全性・サステナビリティを軸にしたその考え方は、今回出会った企業の姿勢にも通じるものだと感じます。
今回ご縁をいただき、大使館とFOODEX会場の両方で、いくつかの企業にお話を伺ってきました。
まずは、デンマークという国について少しご紹介します。
デンマークはヨーロッパ北部に位置し、国土は九州とほぼ同じ大きさ。
環境や社会への配慮を重視した国づくりで、世界的に知られています。
風力発電をはじめとする再生可能エネルギーの活用が進み、持続可能な社会の実現に積極的。
また、オーガニック食品の普及率が高く、日常的に環境や健康に配慮した選択がなされています。
農業では化学肥料や農薬の使用を抑え、畜産においてもアニマルウェルフェア(動物福祉)への意識が高いのが特徴です。
また、近年はプラントベースフードや、バイオソリューションといった新しい食品分野にも力を入れています。
このようにデンマークは、政府・企業・研究機関が連携しながら、環境・食・福祉の分野で先進的な取り組みを行い、「持続可能で豊かな暮らし」を体現している国です。
Aurion(アウリオン社)

Brian Tholstrup Nybo ブライアン・トルストルップ・ニーポ社長
「アウリオン」社は、まだ“オーガニック”という概念が一般的でなかった50年以上前、ラーセン夫妻によって設立されました。
ルドルフ・シュタイナーの思想に基づき、自然と宇宙の調和を重んじるバイオダイナミック農法や有機農法によって育てられた穀物を扱う企業です。
古代麦を扱う理由
Q.スペルトやアインコーン、エンマーなど古代麦を多く扱うのはなぜ?
A. 味わいが深く、現代麦に比べて栄養価も高く、健康面でのメリットも期待できるためです。
大量生産に適した現代麦に対し、古代麦は手間がかかります。
それでも品質を重視し続ける姿勢は、私たちのポリシーそのものです。
デンマークのパン事情とロブロ
Q.伝統食のロブロは今もよく食べられていますか?
A. 50年前は、パンの約8割がロブロのような全粒粉のパンで、白いパンは2割ほどでした。
しかし現在はその割合が逆転しています。
ただし、2008年に始まったホールグレイン・パートナーシップの影響で、全粒粉の摂取量は再び増加しています。
日本のパンへの印象
Q.日本のパンについてどう感じましたか?
A. 初めての訪日でまだ実際には食べていませんが、店頭のパンはケーキのように見えました。
精製された小麦のパンが多く、全粒粉のパンは少ない印象です。
日本のパン職人も消費者もいきなり全粒粉100%に挑戦するのではなく、まずは10%程度から取り入れることで、徐々に広げていくのがよいのではないでしょうか。
50年で変わったこと、変わらないこと
Q.創業から50年で最も変わったことと、変わらないことは?
A. 大きく変わったのは、扱う穀物の種類です。4種類から32種類へと増え、特に古代麦のバリエーションが広がりました。
「ジーンバンク(種子保存機関)」との連携により、200年以上前の品種を入手し、商業利用できるようになったことも大きな変化です。
一方で、自然と人間の共生を重視し、品質を最優先するという理念は変わっていません。
自然から恵みを受け取るからこそ、自然を大切にする――その考え方が根底にあります。
FOODEX会場での試食
FOODEX会場では、アウリオン社のライ麦を使用した、広尾「BROD」のロブロが提供されていました。
スモーブロ(デンマークを代表するライ麦パン「ロブロ」を使ったオープンサンドイッチ形式の伝統料理。季節感を取り入れた具材を幾層にも重ねるのが特徴)に仕立て、Mill & Mortar社のスパイスをひと振り。
シンプルながらも華やかな味わいに、試食した来場者からは「美味しい!」という声が上がっていました。
また、人気商品のオーバーナイト麦ミックス「おはようポリッジ」も試食。
ライ麦・大麦・オーツ麦・スペルト小麦の粗挽きフレークに、チアシードと亜麻仁を加え、刻んだデーツでやさしい甘みをプラス。
牛乳やオーツミルク、豆乳に一晩浸し、翌朝いただくスタイルです。
さらに、Oialla社のオーガニックチョコレートがトッピングされており、少量でも驚くほど香り高く、印象に残る味わいでした。
お粥にチョコレートという発想は新鮮で、雑穀の楽しみ方のヒントにもなりそうです。
※アウリオン社が共同運営する育種協会「ランソーテン」には、北海道・十勝のアグリシステム株式会社も加盟。
同社が長年保全してきた古代ライ麦や焼き畑ライ麦、紫小麦などの種子が扱われるようになり、すでに輸入手続きも完了。2026年から播種が開始される予定です。
Mill & Mortar(ミル&モーター社)

Iben Büchert イーベン・プッヒャート社長
「ミル&モーター」社は2008年創業。
世界中から厳選した高品質なオーガニックスパイスや塩を扱う会社です。
イーベン社長のフレンドリーな人柄と、エレガントなパッケージデザインが印象的でした。
なぜオーガニックにこだわるのか
Q.なぜオーガニックにこだわるのですか?
A. 会社を立ち上げた約20年前、世の中には質の低い安価なスパイスが多く出回っていました。
それらは「どこで、いつ、どのように採取されたのか」といった背景が不透明で、取引の実態も見えないものばかり。
その状況に疑問を抱いたことが、すべての始まりです。
「これまでとは違う、自分が本当に納得できるスパイスを探そう」
そう決意して、私の旅が始まりました。
ワインに例えるなら、
ステンレス容器で大量生産され箱詰めされるものと、樽で丁寧に醸造され瓶詰めされるものの違いのようなものです。
私たちは後者――情熱と責任を持って栽培に向き合う生産者を自ら探し、直接契約しています。
自然のまま熟成されたスパイスは、人工的な処理を施したものとは異なり、ナチュラルで奥行きのある香りを持っています。
当社のスパイスはすべて手摘み・手選別。ブレンドや包装も手作業で行っています。
オーガニックであることはもちろん、
サステナブルな取り組みであること、毎年同じ農家から適正な形で仕入れるフェアトレードであること、そして何より味と品質が優れていること。
そのすべてが満たされて初めて商品となります。
価格は決して安くはありませんが、その背景をすべて語ることができる“責任ある商品”であると考えています。
スモーブロとスパイスの関係

Q.スモーブロとスパイスの相性、日本人におすすめの使い方は?
A. スモーブロは、スパイスをほんの少し加えるだけで、味わいが一段と引き上がります。
例えばアボカドは単調になりがちですが、スパイスを加えることで複雑さと深みが生まれます。
また、日本人は漬物がお好きだと思いますが、デンマークでもマリネや甘酢漬けをよく食べます。
そうした“漬ける料理”にスパイスを加えるのもおすすめです。
私たちは高品質なスパイスを産地から集めるだけでなく、家庭で使いやすいブレンドも開発しています。
市販品の多くは塩を混ぜて量を増やし価格を抑えていますが、当社はそうしたことは行いません。
塩や添加物を加えず、純粋にスパイスのみでブレンドしています。
例えば「トリプルレモンペッパー」は、オーガニックレモンの果皮に黒胡椒、ネパール産の花椒を合わせたブレンド。
爽やかな酸味とピリッとした辛味が特徴で、魚や鶏肉のグリル、パスタ、ドレッシングなどに加えるだけで味がぐっと引き締まります。
また「ヴァドゥヴァンカレー」は、フランス由来のやさしい風味のカレースパイスで、日常使いしやすい一品です。
イーベン社長にとって「スパイス」とは
Q.あなたにとってスパイスとは?
A. 食材には「五味」――甘味・酸味・辛味など、基本となる味があります。
スパイスは、それらにさらに深みや広がりを与える存在です。
例えば、茹でただけのじゃがいもでも、スパイスひとつでまったく異なる表情を見せます。
その変化こそがスパイスの魅力です。
私たちは、この「スパイス」という存在を、もう一段階上の価値へと引き上げたと自負しています。
Oialla(オイアラ社)

Rasmus Bo Bojesen ラスムス・ボー・ボイセン社長
「オイアラ」社は、ボリビアの限られた地域で採れる“野生のカカオ”を使ったチョコレートを手がけるブランドです。
マスターショコラティエのラスムス氏は、三ツ星レストラン「トロワグロ」やショコラトリー「ベルナシオン」で経験を積み、日本では懐石料理も学んだ経歴を持つ料理人。
確かな技術と感性をもとに、唯一無二のチョコレートを生み出しています。
2010年の創業当時は、ビーン・トゥ・バーやシングルオリジンチョコレートはまだ一般的ではありませんでした。
ラスムス氏は、自らが納得できるオーガニックチョコレートを作るため、理想のカカオを求めて世界中を探し続けたといいます。
野生のカカオとは何か
Q.野生のカカオと栽培カカオの違いは?
A. 栽培カカオは農薬などの影響もあり、実が締まり苦味が出やすい傾向があります。
一方、自然の中で育つ野生のカカオはそうした要因がなく、よりナチュラルでピュアなフレーバーを感じることができます。
効率よりも味を選ぶ理由
Q.野生のカカオは収量が不安定では?
A. たしかに効率はよくありません。
一般的な栽培カカオが約2.5cmほどの大きさなのに対し、野生のカカオはその半分ほど。
しかも収穫から加工まですべて手作業です。
そのため生産量は通常より約60%も少なくなります。
ですが――味はその分、60%以上良いと感じています(笑)。
ボリビア産カカオへのこだわり
Q.ボリビアの野生カカオの魅力と、他産地の可能性は?
A. 私たちが使用しているカカオは、アンデス山脈からアマゾン川へと流れる水系の中にある、ごく限られた島でしか採れないものです。
いわば“混ざりもののない原種”であり、極めて純度の高いカカオです。
通常、カカオ100%のチョコレートは苦味やえぐみが出やすいため砂糖を加えますが、このカカオはそのままで美味しい。
高品質なオーガニックカカオだからこそ可能な味わいです。
そのため、砂糖を控えたい方にも、純粋なカカオの風味を楽しんでいただけます。
現在のところボリビア以外のカカオでチョコレートを作る予定はありません。
ただし、この貴重なカカオの魅力を最大限に活かした派生商品は、今後展開していく予定です。
試食で感じた“野生カカオの力”

実際にカカオ100%のチョコレートを試食させていただきましたが、これまでの“100%チョコレート”のイメージを覆すものでした。
驚くほどなめらかな口どけ。
一般的に感じる強い苦味や粉っぽさはほとんどなく、むしろシルクのように舌の上でほどけていきます。
パッケージを少し開けただけで、閉じ込められていた香りが一気に立ち上がり、空気が変わる感覚。
味わいは、成熟した赤ワインを思わせる酸味と奥行き。
芳醇な香りと長い余韻に、思わず浸ってしまいます。
体にすっと染み込み、内側からエネルギーが満ちてくるような感覚――
まさに“自然の力”をいただいているような体験でした。
72%のチョコレートも試食しましたが、100%と変わらぬなめらかさを持ちながら、
わずかに加えられたミルクと砂糖によって、ココアのようなやさしくほっとする味わいに仕上がっていました。

さらに、チョコレートを使ったマジパンボールも。
丁寧に挽いたアーモンドで作るしっとりとしたマジパンを、レモンやオレンジ、ラズベリー風味のチョコレートでコーティングしたものです。
ラズベリーとオレンジをいただきましたが、どちらも甘さは控えめ。
特にオレンジは、香料ではない自然な柑橘の香りが余韻としてふわりと鼻に抜け、非常に繊細な印象でした。
3社の社長は皆さんとてもフランクで、私の拙い英語にも丁寧に耳を傾けてくださいました。
共通して感じたのは、「本当に良いもの、美味しいものを届けたい」という強い情熱です。
また今回の取材では、『ロブロの教科書』を著された、くらもとさちこさん https://www.kuramoto.dk/が通訳としてご協力くださり、各社とのコミュニケーションを深めることができました。
この場を借りて、心より感謝申し上げます。

パンに挟む具材としても活躍しそうな、プラントベースの代替肉を手がける「Organic Plant Protein(オーガニックプラントプロテイン)」社。
デンマークは気候的に大豆の栽培が難しいため、えんどう豆やそら豆を原料としたグルテンフリーの商品を展開しています。
大豆アレルギーのある方でも安心して取り入れられるのが特徴です。
実際に試してみると、ほどよい弾力としっかりした歯応えがあり、言われなければお肉と思ってしまうほどの完成度。
さらに、この乾燥タイプの製品はミキサーで細かく砕き、ひき肉に混ぜるなど、用途の幅も広いそうです。

「SWEET INTENTIONS」社の『HEY YUM!』は、オーガニック原料を使用したフルーツグミ。
鮮やかでポップなパッケージは目を引き、お子さんも思わず手に取りたくなるようなデザインです。
中でもヴィーガン対応の商品は、ゼラチンの代わりにペクチンを使用。
やわらかくソフトな食感で、軽やかに楽しめるグミでした。
「NORTHERN GREENS」は、オーガニックハーブを細かく刻み、ビネガーと海塩を合わせた液体調味料を展開するブランド。
フレッシュハーブは保存が難しいものですが、こちらは常温保存が可能で、長く使えるのが魅力です。
試食したリキッドガーリックをグリルチキンにかけてみると、
すりおろした生のにんにくのようなマイルドさに、ビネガーの軽やかな酸味が加わり、さっぱりとした後味に仕上がりました。
「OSTERBERG FOOD SERVICE」社のドリンクは、100%オーガニック。
甘味にはフルーツのみを使用しています。
エルダーフラワードリンクをいただきましたが、
ライチのようなやさしく華やかな風味で、とても好みの味わいでした。
オーガニック先進国・デンマーク。
今回の取材を通して、環境や健康への配慮だけでなく、
「美味しさ」と「品質」をしっかりと両立させていることを実感しました。
日本でも、こうしたデンマークの食品がもっと身近に手に取れるようになると嬉しい――
そんな思いを抱いた、充実の2日間でした。
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この記事を書いた人
岩田聡子 さん
パン屋さんめぐりは人と人を繋ぐ。転勤族&専業主婦の私でも気づけばパンを通じて友達の輪が!!旅行好きな主人と地方のパン屋もめぐってます。
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